擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~


文化祭前日はもしかしたら、文化祭当日よりも浮き足立つのかもしれない。

学校に集まっても今日は一切授業が無いし。

午後も深まってきたら、いつもとは違う衣装で、自分達が苦労して作った大きなお神輿を担いで、町を歩き回る。

日常的では無い雰囲気が漂うだけで、それはとてつもなく特別なことのように思えて、ただそれだけで昂揚感が高まるのがわかる。


「それじゃあ、2-A出発するぞ!」

浪川先生の声で一つになった掛け声が返ってくる。

お神輿は主に男子が持ち、周りの女子達が応援するような形で学校の門を出た。


近所の住民が外に出て、声をかけてくれたり手を振ってくれたりして毎年の恒例行事を楽しんでくれているようだ。

生徒の父兄も見に来ていて、名前を呼ぶとその生徒が恥ずかしそうに小さく手を振っていた。


「ねぇ、何で雅ちゃん男の子役なの?」

柏木さんはよく通る声で応援しながら私に近づいて来て、姿を見るなり口を尖らせた。


「だって、可愛いお姫様とかはみんなの方が似合うでしょ」

ちなみに、柏木さんはティンカーベルの緑色の衣装で小さな羽根も再現している。

2-Aのテーマはおとぎ話。

おとぎ話に登場するキャラクターをモチーフに皆、衣装を変えている。

歩く事が前提なので、ドレスのような足元までの衣装は無く、「モチーフ」ということで好き勝手に手を加えている。

私は、自らお姫様の衣装をこの場で着る勇気は無かったので、どこぞの王子様の家来役、と言い張っている。


正直、可愛らしい衣装を作り始めたらドン引きされる程、懲り始めてしまいそうな気がした。

少し裁縫が得意な先生、ということで生徒達に本性はバレていないと思う。