改札を通ったところで立ち止まり、「じゃあ、またね」と佐久間さんが微笑んで背を向けた。
私は、その背中に向かって、口を開きかけたけど、喉につっかえてしまって出てこない。
そうこうしているうちに、佐久間さんの姿は見えなくなってしまい、出しかけた言葉を溜息と共に吐き出した。
何で拒否してしまったんだろう。
ホームに下りると、ちょうど滑り込んで来た電車に乗り込み、閉まったドアに背を預け、溜息をまた一つ。
今の佐久間さんを信じられなくて、10年も前の失恋をまだ引きずっているんだろうか。
そうだとしたら、ほんと・・・
「馬鹿だな・・・」
「でかい、独り言」
噴き出した笑いと共に聞き覚えのある声色。
見回すと、横の席に座っていた結城君が私を見上げていた。
「い、いるなら言ってよ!」
「勝手に喋ってたのは先生でしょ。人のせいにしないでほしいな」
それは、そうなんだけど。
こんな偶然、酷すぎる。

