「それは平気。俺と来ればいいんだから」
縁に乗せていた手が佐久間さんの大きめの硬い手に包まれる。
夜景に向けていた視線を掴まれた手、佐久間さんの腕、肩、首、というようにゆっくりと移して行く。
「さ、くま、さん・・・?」
私の肩に手を置いて、佐久間さんは顔を近づける。
瞬きも忘れ、その光景を第三者の如く見つめていた。
「ま、待って!!」
佐久間さんの腕を振り払って背中を向けた。
「あ、っと・・・、ごめん、芹沢」
佐久間さんがどんな顔をしているのかわからなかったけど、酷く傷付けたことは声色でわかってしまう。
「ご、ごめんなさい、佐久間さん」
振り返って、慌てて謝ると佐久間さんの方が慌てていた。
「俺が調子乗り過ぎたんだから。芹沢が謝るなよ」
それから、少し気まずくなってしまって、佐久間さんの「寒くなってきたな、そろそろ帰ろうか」という言葉には正直救われた。
だけど、とても申し訳なくて、佐久間さんの顔を見ることができなかった。

