店を出た後、佐久間さんに「どこに行くんですか?」と訊ねてみた。
そしたら、佐久間さんは、
「それは、秘密」
と、教えてはくれず、街頭が眩い雑踏の中を進んで行った。
見栄を張って、慣れないヒールのあるパンプスを履いて来たせいで佐久間さんに遅れをとってしまう。
進む道は徐々に人気も明かりも消えていく。
佐久間さんがどこに向かっているのか、だんだんと不安になってきた。
「大丈夫?休もうか?」
歩幅を合わせてくれていた佐久間さんは、歩調がどんどん遅くなる私を気遣って提案してくれる。
だけど、それを大丈夫です、と答えて返す。
「ごめん、もうちょっとなんだ」
佐久間さんが示す方に、階段が見えた。
その階段を上って行き、最後のところで佐久間さんが手を差し伸べてくれたので、その手に甘えて最後の段を登り切った。
「う、わぁ・・・」
目の前に広がったのは人工的に作られた星の海。
ビルの明かりが、街灯が、車のヘッドライトが、その海を作り出している。
「穴場スポットなんだ、ここ」
「そんな所、私に教えてくれて良かったんですか?」
「いいよ。でも、1人では来ないでよ?暗いから」
「来たくても来れないと思います。正直、道がうろ覚えです」

