駅までの道のりも、満員電車に押しつぶされそうになっていても、私の頭の中は結城君がどうか喋らないでほしい、という祈りとバレてしまった場合の対処方法を考えることだった。
通勤だけで疲労してしまった私は自分の席に座ると、それが顔にも出ていたのか、小顔ローラーで顔の輪郭を矯正しながらの美原先生が「どうかしましたー?」と覗き込んできた。
「ど、どうかって?」
「朝から暗いなーって思ったんですけど」
「気のせいですよ」
笑顔を取り繕うと、最初は訝しんでいた美原先生は若干納得しきれていない様子だったけど、今度は別の事に興味が沸いたらしい。
「あ、またチープファッションコーデですか?」
美原先生はファッションに煩いだけあって、私の服を一目見てどこで買った物なのかを見抜いて口を尖らせた。
美原先生曰く、1点チープブランドを取り入れるのは有りだけど、全身揃えるのはお洒落じゃないと主張する。
私にしてみれば、教師らしい恰好ができればブランド名なんて気にしない。
「別にいいじゃないですか」
「芹沢先生は素材は悪くないんだから、そんな地味な服ばっかり着てたら顔まで地味な印象になっちゃいますよ」
さり気無く失礼な発言を連発してくる美原先生に悪意は無いことはわかっているので、適当に受け流す。
「地味でいいんです。学校は勉強をする場所なんですから」
美原先生は珍しい物でも見るかのような目で私を見つめた。
直感で結城君の本性を見破っていた美原先生は意外に教師としてのスキルが誰よりも優れているのかもしれないと思った。

