擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~



鍵を閉め、結城君の部屋のドアに視線を向けると、大きな溜息が漏れた。

思えば、このアパートで暮らす人を半分以上も把握しておらず、隣にどんな人が住んでいるのかも知らなかった。

私の部屋は1番左端の角部屋で、結城君がその右隣。そして、その隣にも1部屋あるけど、そこはまだ空き部屋なことは知っている。

生徒達よりも早く出勤し、生徒達よりも遅く帰宅する私は結城君と同じ学校に通いながら生活のリズムに若干ズレがあり、今まで奇跡的に顔を合わせてこなかった。

できれば、今まで通り隣人を知らないままでいた方が幸せだった。

一方的に「同盟」と言うのを組まされたけど、結城君が絶対バラさないとは言い切れない。

バラされでもしたら、生徒達は不信感を抱くかもしれないし、気持ち悪い、と陰口を叩かれるかもしれない。

校長に呼び出されて、厳しい視線のPTAに囲まれ、辞職する自分が思いのほかリアルに想像できてしまって身震いした。