「この場合、仕方ないだろ。俺、吊革ゲットしたから安定感抜群だし、そのまま寄り掛かってていいよ」
「だって、私の体重ほとんど先輩にかかってます」
「そうなの?俺は全然平気だけど。芹沢ほっそいからなぁー、ちゃんと食ってる?」
何でもないかのように笑いながら、「俺は、もう腹減った」と食べ物の話を始めた。
私が気にしないように、話を逸らしてくれているのは明白で、それがまた申し訳なくて、だけど、ああやっぱり、佐久間先輩だな、と懐かしく思う。
数駅を佐久間先輩の体に寄り掛かかりながらやり過ごし、私の降りる駅名がアナウンスで告げられる。
「私、ここで・・・」
「そっか。出られる?」
「この駅で結構降りると思うんで。ほんと、助かりました」
「いいよ、いいよ」
頭を下げたつもりだけど、もちろん先輩にはわからなかっただろう。
電車が速度を緩め始め、乗客がそわそわと動き始める。

