「粋がってる、か。言ってくれるよね」
私が購入を考えていたセルフレームの眼鏡を中指で押し上げて、持っていたオレンジ色の服を広げて眺めていた。
忘れていたけど、今のこの状況ではあの服が人質のようにも見えてきた。
さっきまで見ていたバトル物アニメの組織に属するキャラクターが着ている女子用の衣装だ。
組織の紋章が描かれた黒いボタンが印象的なナポレオンジャケットをモチーフにした衣装。
「それ、返してくれないかな」
普段着にしては派手だけど、売っている服とあまり見分けがつかない程の完成度だと自負している。
このまま、買った物として押し通せないものかと考えた。
「これ、どっかで見たことあるんだけど」
「どこかのお店で見たんじゃないかな」
結城君は衣装を裏にしてみたり、下から覗き込んだりして「そういうのじゃなくて」と記憶の端を手繰り寄せようとしていた。
「先生のイメージにも合わないし」
「プライベートなんだから、いいでしょ?」
結城君がアニメに詳しいとは思えないから、バレるわけがないとたかを括っていたけれど、結城君は、あ、と何かを思い出したようだった。
「これってアニメのキャラクターが着てる服じゃなかった?アニメのCMで同じの見たよ」
結城君の隙をついて手から奪うように服を取って、背中に隠した。
「先生、コスプレが趣味なんだー。意外だなー」
「そ、そんなわけないでしょ!」
「もう動揺が隠せなくなってきたね」
頬杖を付いて、私の反応を観察しながら目を細めてニヤリ、と口元を緩めた。
アニメが好きで、コスプレする服も自作してはイベントに出かけるのが趣味なんて学校に知られたら教師生活は破滅しかない。

