後部座席に振り返り、微かな微笑みを見せたその男を見て、洋子は気がついた。
『あなたはさきほどの……和田、さん?』
『よく覚えていて下さいました。そうです和田です。おふたりに事情を伺いにやってまいりました。……大丈夫ですか?』
この時も和田の言葉の中には自分たちを
気遣う気持ちが垣間見えると洋子は感じた。
『大丈夫です。』孝子が答えた。
『ありがとうございます。ではまず……そちらの。』
『あ、徳田洋子と申します。』
『徳田さんですね。被害者の近藤さんとはどんなご関係で?』
流石刑事だ。どんな手段を使ったのだろうか、もはやサヤカの名を知っていた。
『サヤカとは……高校生の時に出逢いました。それからずっと一番の友達です。』
途切れ途切れであったが、洋子は伝えた。
『そうでしたか…そして本日は何故近藤さん宅に?』
『高校のときは毎日のように会っておりましたが、社会人になるとそうはいきませんでした。ですが、やはり一番の友人には会いたいもので……サヤカと私は月に2度くらいのペースで会っていました。そしてそれは決まってサヤカの家でした。今日もそれで……』
『何故、いつも近藤さんの家なのでしょう?』
『私は実家暮らしなのです。二人だけの方がいいね、ということで…それにふたりとも倹約家なところがあり、お金を使わない場所となると…』
『よくわかりました。では次は……』
『室井孝子です。このアパートの管理人です。』
『では室井さん。昨夜から今朝にかけて不審な人物は管理人室から見受けられませんでしたか?』
『すみません刑事さん……私は管理人とはいえ住人に呼び出された時しか表に出ないのです。セキュリティはどうか御自分で、と住人の方には言っています。ですから、人の出入りは、まったくといっていいほど分かりません。』
『謝らないでください。最近はそんなアパートも普通ですよ。では何故、洋子さんとご遺体を発見することに?』
『サヤカちゃんの身に何かがあったかもしれないと勘づいた洋子ちゃんに鍵を頼まれたんです。サヤカちゃんは私をすごく慕ってくれました。だから、親友の洋子ちゃんのこともサヤカちゃんの紹介で知っていました。』
『よくわかりました。ありがとうございます。』
その言葉を最後に、和田は口を閉ざし
手元の手帳を見つめていた。
その沈黙に洋子は堪らず和田に話しかけた。
『あの…サヤカはどうしてあんなことに』
その瞬間、いままで微笑みを見せていた
和田の瞳が鋭くなったように
洋子には感じられた。
『近藤さんは………今のところ殺人のセンで考えております。』