すると、ひとりの警察官が洋子に近寄ってきた。



『こんにちは。この度は心中お察しします。私は、この件を担当させていただきます、和田です。』



その男の話し方はハキハキしていて、
見た目も清潔そうなひとだった。





『はい…あの…わたしっ』

いわば洋子と孝子は第一発見者だ。きっと何か聞かれるに違いない。






『そろそろ夕飯時ですね。おふたりとも、夕飯の方は召し上がりました?』

『…えっ?』

予想もしていない言葉だった。



『こら、和田。そのふたりは捜査に協力して頂くことになる。余計なことは話すな。』





『いえね、警部。大切な人の死を目の当たりにして頭が混乱している直後に、質問なんかしたって、冷静な答えなんて聞けやしませんよ。被害者はひとりじゃありません。』







変わった人だ。洋子は直感的に思った。



『…あの…』



『あぁ失礼しました。あちらにパトカーを用意しています。見た目はちょっとアレですが、中は普通の車です。どうぞそこでお休みください。』



優しく笑顔で語りかけられているのに、
洋子には和田の言葉が、なにか意図のあるもののように聴こえた。





和田の言葉に従うがまま、洋子と孝子はアパートの外に止められた数多いパトカーのうちの
1台に乗り込んだ。






まだ洋子も孝子も、この状況を信じることは出来なかった。



重苦しい空気の中、孝子が口を開く。
『いったい誰があんなこと。』



『やっぱりおばさんもそういう風に思いますか。』


『当たり前じゃない、サヤカちゃんは自分で命を粗末にするような子じゃないわ。』




『だけど…お風呂場で転んだのかも』




『それは私も考えたわ。でも、お風呂場で足を滑らせたくらいであんなにたくさん血なんて出ないと思うわ。』




『そうですよね…サヤカ…。』




『どうしてあの子を守れなかったの。私はこのアパートの管理人なのに。





『おばさん、自分を責めないで。私だってあの子の親友なのに、あの子…サヤカを、守れなかった。』





ふたりは静かに泣いた。




その直後、パトカーの運転席に一人の男が乗り込んできた。