布団から顔を少しだけだし、扉を見つめる。
ドアが開いて、入ってきたのは春斗のお母さんだった。
「さゆりちゃん、あのね……。聞いて欲しいことがあるの」
春斗が起きたばかりだというのに、春斗のお母さんの目は真っ赤で。
もしかしたら、嬉し泣きしたのかもしれない。なんて淡い期待はすぐ破られた。
「春斗のことなんだけれどね……。
今お医者様とお話ししたのだけれど、春斗、記憶がなくなってしまったのよ……」
ふっと目を下に伏せ、春斗のお母さんは気まずそうに言った。
「記憶がない……?」
「漫画や小説なんかで、見たことがない?
記憶喪失、っていうのかしら。普通のね生活する分には大丈夫なのよ。
だけれど、私や陸斗。お父さん。それに友達。さゆりちゃんのことも。全部、春斗忘れちゃったのよ……」

