「ほら、もうすぐ....」

楓君の声、吐息、空気、瞳。
このままだと全てに溺れてしまいそう。

けれどそのまま唇を近付けてしまいそうになった瞬間、ふと蓮の笑顔を思い出した。

「あ....やっぱり、駄目!」

無我夢中で楓君の胸を押して抵抗する。
そうだ。私には大切な婚約者がいて。
楓君はその大切な人の大切な弟さん。

こんなこと、絶対に許されない!

「....どうしたんですか?」
「やっぱり駄目だよ。私には蓮がいる。もう裏切れない。それに....楓君は蓮の大切な弟さんなんだもん。」
「関係無いよ。どうして素直になってくれないの?」
「私もう決めたの。絶対に楓君とはあんなことしない。蓮にもきちんと話そうと思ってる....。謝りたいし、こんなの嫌なの。」

真っ直ぐと、楓君から目を逸らさないように自分の気持ちを伝える。

「....しょーがないなぁ」

するとさっきまでにこやかな表情をしていた彼の顔は一気に冷たい目目付きに変わった。背筋が、凍る。