俺を呼ぶ声が、窓の外から聞こえる。それをもう少し聞いていたから、気づかないふりをした。
「大地!だーいーちぃーーー!!」
「大地、皐月ちゃん来たよ」
「分かってるって」
さつきが、好きって言った服を着て家を出た。気づいてくれたらうれしい。
「大地!何回も呼んだんだよ?」
「ごめん、ごめん。今日、どこいく?」
「んー、どこいこうね」
子供っぽく笑う。あぁ、この笑顔、好きだな。かわいい。今日さつきが着てきた服、俺が好きだっていった服だ。まぁ、どうせたまたまだろうけど、俺を意識して着てくれたならどんなにいいか。
「……カラオケ行こう!!」
「カラオケかぁ、最近行ってなかったな」
「でしょ!行こう!」
「ん、行こうか」
10分歩いたら、大通りに出る。そこからまた10分歩くと、昔よく行ったカラオケについた。
「学生二人でフリー!」
「かしこまりました。2階の206号室です」
「ありがとうございます。さつき、行くぞ」
「はーい」
俺はオレンジジュース、さつきはリンゴジュースを持って部屋に入る。
それから3時間ずっと歌い続けた。あいつが歌うのは恋愛ものばかり。いつもなら友情ものがほとんどで、恋愛ものはそうそう歌わない。確信した。あいつは好きなやつがいるんだ。
トイレにいく、と嘘をつき、部屋から出た。涙を、唇をかんで堪えた。泣いたらばれる。唇から血が出た。痛い。それ以上に、胸が痛い。あの部屋に戻りたくない。それでも、戻らないと。


