自転車を漕げば、視界の向こうで千夏が手を振ってる
………もぅ
まだ話してもないんだぞ?
見えてるだけなんだぞ?
なのに、ニヤニヤが止まらない
おそらく今日一日で
オレの顔面の筋肉は
“勘弁してよ”と悲鳴をあげるに違いない
「カズくん、おはよ」
「…おはよう」
千夏は自分のバッグを自転車のカゴに入れてから
後ろに座って「いこ」と言った
うーん。自然
いつものことだが、
なんでコイツはオレのニヤニヤポイントを自然にやってのけるのだ?
「なんかね、映画館もあるみたいだよ」
「へー。知らなかった」
「調べてないの?」
「…すんまへん」
いや、考えても仕方ないから
思いのままに行動しようとした結果
調べるということを怠ったんだ
……はい。言い訳です
本当はプランが立てられなかったんです
「なんか見る?」
「んーモノによるかなあ」
「じゃ、着いてから決めるか」
ね、行き当たりばったりだろ?

