コーチらしき人に肩を叩かれるまで、千夏はその場を動かなかった
そして、自分の番になると少しだけ上を向いて
どこか遠くの方を見ているような顔をした
一体、何を見ているのか
合図とともに演技が始まる
あの時、失敗した平均台
大丈夫、できるよ
安心して、行っておいで
恐れずに、怖がらずに
下は見ないで、上だけを見据えて
それが、千夏だろ
……すごくいい顔をしてる
あの時とはまるで違う
何が千夏を変えたのか
千夏の中で何が起きたのか
知る由もないけれど
ああ、楽しそうだな
こっちまで楽しくなってくる
体操が好きだって全身で言ってる
よかった
千夏、良かったな

