「「……………」」
「先輩、分かりますけど無理がありますよ。
金銭的なこととか…親の承諾とか」
そうかもしれない。でも一緒にいたいんなら
「彼女の家の近くに引っ越すとか」
だって、会いたい時に会えないなんて嫌だ
「アハハッ」と三井先輩が急に笑った
「さすが山口。負けたわ」
なにが?
ひとしきり笑ったあと、三井先輩は瀬戸のベッドに寄りかかって
「そうか。一緒に住めばいいのか」と言った
「三井先輩、本気で言ってます!?」
「別に、今すぐの話じゃない。いずれの話だ」
「互いのやりたい事が出来るかって不安と
離れる不安が、上手い具合に重なっちまっただけだったんだな」
「それが物理的に解決できるなら、
それにこした事はない」
「俺は不安を取り除いてやるんじゃなくて、
希望をあげれば良かったんだな。
気付かなかったよ」
そして
「いつも近くにいるヤツは言うことが違うな」と言ってからコーラをローテーブルに置いた
いつも近くに…
そうか
少し歩けば会える距離って
すごく恵まれてる事なんだな
会いにいったり
会いに来てくれたり
自然消滅って言葉があるくらいだもんな
物理の距離って大事なんだな
三井先輩は気づかなかったって言った
それは離れる怖さを知っているから
オレはまだ知らない
千夏と離れる時のことなんて
今までに1ミリも考えたことない

