―…

土曜日。

5分前に待ち合わせ場所についた。


何だかちょっと複雑な気分。

輪もいない、しかも学校帰りではなく、こうして休日に望乃と待ち合わせて映画なんて。


「けんご~!」

「…おう」


駆けてきた望乃は、めずらしくヒラヒラしたワンピースを着てきた。

ほんのりピンクの地に、花柄。


髪もおろして、女の子らしい。

いつもの望乃はどっちかって言うと、ボーイッシュな服装の方が多いから新鮮だ。

ギャップとはこの事だなぁと思った。



「ホラー観るのに、そんな色気づいてどうすんの」と俺が茶化すと、

「だってデートじゃん、一応っ」と冗談めかして笑って返す望乃。


俺は特にその言葉を不自然に受け取るわけでもなく、いつものように「はいはい」と軽く流した。


俺たちはすぐにチケットを持ち、ポップコーンとドリンクを買い、映画館のゲートをくぐった。

ちぎられたチケットをポケットに無造作にしまう。


もうすでに薄暗い館内を、足元の光を頼りに望乃が先頭になって席を探す。

飲み物とポップコーンで手がいっぱいの望乃は、何だか危なっかしい。


「始まっちゃうー」

「転ぶなよおい」

「大丈夫だって」

「ポップコーン持つって」

「大丈夫っ」

「前みろって」

「だから大ー丈夫だって…あった!Kの9、10」


端に座った客に頭を下げながら、俺たちは自分たちの席に落ち着いた。

俺はハーっと大きく息をついた。


座るとすぐに、画面に映画の予告が流れ出した。


俺はスクリーンの光が反射した、望乃の横顔を覗き見た。

予告が終わると、真っ暗闇の中で沈黙が訪れた。


そんな中で、望乃の咳払いや、息遣い、

体勢を直すごそごそとした音、ポップコーンを食べる音が、すぐ耳元できこえる。


俺は、何だか微妙な居心地の悪さを感じていると、映画の本編が始まった。