「俺、ちょっと腹下してさぁ……望乃、先行っててよ」
「えぇー!?」
「ごめんなぁ。あ、いってっ、マジで痛い…」
俺は大袈裟に顔をしかめて、腹を抱え腰を丸めた。
望乃の様子を伺うと、完全に疑っている目だ。
「ふぅーん…?」
「つう、ごめんなぁ。昨日悪いもんでも食ったかなぁ…」
「何か、あやしいよね?明らかに」
「……えっ?」
あ、やばい。
今の笑顔はわざとらしかったかも?
「今動揺したでしょ!やっぱりあやしい…!絶対あやしい!何か隠してる?」
すると望乃はわざとらしく目をひそめて、部屋の中を覗こうとしてきた。
俺は慌ててそれを止めに掛かる。
「おい、望乃、部屋きたないから…」
「どいて!」
「別に、何もねぇから!何も…」
すると望乃が「あっ!」と声をあげた。
何だと思って足元を見ると、そこには由紀子さんの黒いヒールが。
「ヒール……?」
やーべぇ!
隠すの忘れてた!
どうしよう、どうしよう、どうし…あ、俺が趣味で履くんだ、とか?
いやいやいや、不自然すぎだろ。
母親の靴?友達の靴?
いや、でもわざわざ靴置いてくわけないし……!
あー!
望乃は、言い訳を必死で探して一気に青ざめる俺を見上げ、眉を吊り上げて甲高く叫んだ。
「女!?」
その勢いのまま、望乃は部屋の中へと猪突猛進。
由紀子さんも由紀子さんで、ひょこっと布団から顔を出してしまっている。
どうして皆して、空気を読んでくれないんだ!
俺は何だか泣きたかった。
冷や汗をかいているのは俺だけで、なぜか望乃と由紀子さんは、しばらく目を合わせてから、気まずそうに小さくお辞儀をし合っていた。