ニットの上から、先輩の手が軽く胸に触れた時。



「や、やだっ!」



渾身の力を込めて、大きなその体を突き飛ばした。



「ってぇ……っ。なにすんだよ」



床の上に仰け反った先輩は、目を丸めながら頭をさすっている。



あ、ありえない。


胸を触るなんて。



恥ずかしい気持ちと、それ以上先に進むのが怖いという思いが胸を埋め尽くす。



先輩はそうやって簡単に触れることが出来るんだろうけど、やっぱり私にはまだムリ。



「きょ、今日は帰る!送ってくれなくていいよ!じゃあね」



サッと立ち上がってカバンを持った。


ダウンを掴んで逃げるようにして玄関に向かう。



「お、おい……!」



後ろから聞こえた焦ったような先輩の声をムシして、まだ濡れているブーツを履いて玄関を飛び出した。