「先輩。歩くの遅いです」


「あんたが早いんだよ」


10m先程で私を待っているのは3ヶ月前に私の彼氏になった


古村滉秋(こむらひろあき)、中学2年生。


「早くしないと間に合わなくなります」


「だぁー!わかった!走るよ!」


私は山下夏海(やましたなつみ)、中学3年生。


私は彼をとっても溺愛しているのですが


まぁ当たり前のように素直になれるわけもなく…


「あー。走っても遅い」


滉秋は私の手を握ると走り出した


「え、ちょっ、えっ」


「顔赤いっすよ!先輩!」


風で運ばれてくる滉秋の匂いはやっぱりいい匂いで


握られた手が熱くなっていくのがわかる


「走ってるからだ!」


今日も私は素直になれない――――――。










ずっと走ってやっと着いたのは学校


「ぶはぁぁぁ…づがれだ…」


「こんなんで疲れたんすかー?」


「うっせぇぇー…」


肩でゼーハー息してる私とは逆にケロッと立っている滉秋


憎たらしい。


が、少し汗のかいた横顔はやっぱかっこいい。


「あーあ。もうみんな体育館入っちゃったみたいっすね」


「明らか遅刻じゃんかぁ…」


体育館からドリブルする音が聞こえる


「めんどくさぁ…」


「サボる?」


「やだ。ほら、行くよ!」


体育館に向かっていくと男バスと女バスがハーフで練習していた。


「遅いよ、夏海!」


ボールを抱えてちょっと怒り気味に言うのは部長の千佳(ちか)。


「ごめんっ」


部員はケラケラ笑って駆け寄ってきた


「今滉秋と入ってきましたよね?どっか遊びに行ってきたんすかー?」


「違うよ。そこの道で会っただけ」


「偶然同じ時間にですかぁー?」


「そ。偶然同じ時間にぃ~」


ってのはまぁあるわけないけど。


遊びましたよ。滉秋の家で。漫画読んでただけだけど。


「はい!皆はメニューの続きやる!夏海はそこ5周してストレッチしたらメニュー入って!」


「はぁーい」


バッシュの紐をきつく締め、体育館の隅を5周する。


その間、少し男バスを見てみる


滉秋はやっぱり部員にいじられてる


5周を走り終えてストレッチをしてたとき。


「体硬いな!」


男バスの副部長、飛鳥(あすか)がトイレから戻ってきたとこらしい


「うっさいなぁ。これが標準なんだよ」


「いや絶対標準じゃねぇだろ。押してやるよ」


「いや、いいってそうゆうのぉぉおぉ!!?」


痛い!痛いよ!切実に!!?


「いだだだだだっ!!」


「ちょっと飛鳥!!女バスにちょっかい出さないで!」


部長さんがカッと怒った。


「いやぁーすんません!じゃあなっ」


「お、おぉぉう…」


しばらく股関節がビキビキして痛かった…


今日は終わり時間30分前に男女バス恒例の試合をやった。


最初は女子vs女子。


試合が始まった。


「はいっ」


パスをもらってシュートを放つ。


ボールは綺麗な弧を描いて音も立てずにゴールに吸い込まれていった。


私の唯一の得意技はシュート成功率。


ミドルシュートは5本中5本。3ポイントシュートは5本中4本という確率。


その反面、1on1はできない。


シュートまでのアシストや、自分のシュート成功率しか役に立たない。


あとはかつて野獣と呼ばれたディフェンスの強さくらいだ。