「でも、そこで助けてくれたのが、東大寺グループだった。」
こぼれた涙を隠す為に、笑顔で初音を見つめる。
「親父の大口さんの知り合いが東大寺グループの幹部でね。親父の工場の事情を知った幹部が俺達家族を引き取ってくれた。そして、俺は東大寺グループのお嬢様の遊び相手として迎えられた。」
「それが花子さん…。」
「あぁ。それ以来、執事になり、ずっとお嬢様の傍に仕えるようになった。」
「そうだったんだ…。」
「実は東大寺グループと西大寺グループは仲が良くてね。
俺達家族は東大寺グループに引き取られたけど、工場の従業員達は西大寺グループに引き取られたんだ。
だから、俺は東大寺グループと西大寺グループ、どちらにも恩を感じている。
どちらにとっても良い事であるのなら、俺には選択肢は生まれない。」
「でも…。」
初音は少し腑に落ちない顔をする。
「それでも…、やっぱり自分の気持ちを押し殺すってどうかな…。
博人君が言っているのはあくまで周りの環境の事情であって、博人君の気持ちは何一つ入っていないように思う。
それに、花子さんが好きな博人君が傍に居ても、美樹さんは幸せになれるとは思えないな…。」
博人は、再び初音の隣に腰かけて、優しく初音の髪を撫で始めた。
「俺は今は美樹の彼氏。俺は美樹しか見ていない。真実はこの1つだけ。」
これ以上は深く聞かない方が良いと感じた。
「初音さんが今、悩んでいる事。それは俺には明確な答えは出せない。ただ、100人いれば100人とも思い方、考え方は違う。後は、自分の気持ちとどれだけ向き合えるか、だと思うよ。」

