「でも、自分は東大寺花子の執事だから、自分の思いは出さないって言ってたよね?そして自分の思いを押し殺して美樹さんの彼氏になって…。そんなのでいいの?」
博人はベッドから立ち上がり、初音に背を向けたまま窓の外を眺める。
「私には、自分の思いを抑える自信がない。それだけ好きだから。博人君は花子さんに対する思いってそんなものだったの?」
「…東大寺グループと西大寺グループの為になるのなら、これでいいんだ。」
「どうしてそこまでして…。」
「俺にとって、東大寺グループと西大寺グループは恩人なんだ。」
窓を眺めていた博人がくるりと振り返り、学習机の椅子に腰かける。
「俺の家は小さな町工場でね。
大きな工場からの下請けの仕事をしていたんだ。
決して裕福ではなかったけど、親父と御袋、それに工場の従業員達の必死な姿を見ているとそれだけで幸せになれた。
けれど、不景気になって、あっという間に倒産の危機になった。
親父も必死に工場を維持するために毎日走り回っていた。けれど…。」
博人は顔を俯かせる。
「ダメだった。あっさりと潰れてしまった。あまりにもあっさり過ぎて、最後は皆笑っていたよ。涙も流す暇さえなかった。」
俯く顔から涙が一粒流れたように見えた。
「博人君…。」
初音の言葉に反応し、博人は顔を上げた。

