「ねぇ。世界の端って、何処なんだろうね……」
「え?」
それは、屋上の冷たい風に吹かれながら、彼女が呟いた言葉だった。
小さな呟きは、冷気と共に直ぐに風にさらわれていき、冬の空気に凍りつきそうになりながらも、彼女は屋上から去ろうとはしなかった。
自分の体を抱き締めるようにしながら、まるで寒さに立ち向かうように風を受けている彼女は、まるで何かと戦ってでもいるみたいに見えた。
「世界の端まで行きたいな」
屋上のフェンスを握り締めて、遠い空を見つめる彼女がポツリと呟いた。
「どう……して?」
それがどんな意味を持っているのか。
私は、考えるのが恐かった。
ただ、寒空の下。
彼女の背中を見つめていた。
「ここから一番遠くて、誰も私の事を知らない、世界の端まで行きたいの」
願うように冬の空を見上げていた彼女に、私は何も言ってあげることができなかった。
空を仰ぐ彼女を、ただ寒さに身を縮め、見ていることしかできなかった。



