「ごめん。先行ってて」
直と歩いていて、すぐ後ろで声が聞こえた。
イスに座っていたあの子だった。その子は教室へと戻る。
「梗君。走る?けっこー時間ヤバいよ」
「わりぃ。先行っててくれ」
「え?ちょ…」
直の声を後ろに走った。
教室に行けば、あの子が体育館シューズを手に持って出ようとしていた。
だから、ドアの前に立った。
「あの…時間無いんで……どいてもらえます?」
「君さ、名前は?」
「…陽塚 由紀ですけど?」
少しイラッとした声だが気にはしない。
「おれのアドレス聞かないわけ?」
「えっ?ちょっと急いでるんですけど…」
「知ってるよ。だからさ君の友達は聞いてきたじゃん?君は?」
「別に興味無いんで…どいて」
その子はそのままおれの体をすり抜けていった。
おれの頭には一つの言葉が残った。
キョウミナイ
陽塚 由紀。
初めておれのいつも通りを変えた名前だった。