ここはサバンナだ。



額にじんわりと浮かんだ汗を指先でぬぐいながら、有梨(ゆり)は思う。



午後6時を過ぎた繁華街の駅前は、帰宅を急ぐ人の群れと遊びに出かけようとする人の群れでごった返していた。

真夏のうだるような熱と湿気の中、ぐるぐると渦を巻くように流れるその人波の中に、自ら巻きこまれに飛び込んでいく者がいる。



「ハンター……」

ぽつりと有梨は呟く。



ハント――狩り、をするものたち。


ハンターたちは渦の構成員をほど近い距離から注意深く見守っている。

すねに傷のある獲物をこの渦からうまく引っぱりだそうと、その爪を隠してじっと粘り強く待っているのだ。



あつらえ向きの獲物が現れれば、彼らは忍び足で獲物に迫る。

すねの傷を上手につついて、甘い言葉で誘いこむ。



獲物が罠に気づくころには、鋭い爪が既にすべてを抉り(えぐり)さっていることだろう。