―――トントン――――


扉を叩く音がする
また一人強い憎しみを抱いた人が助けを求め
この黒水晶の敷居をまたぐのだ
ゆっくりと開いた扉からひとりの女性が黒いカバンを抱え部屋に入ってくる

「断罪探偵事務所へようこそ!お姉さん一人だよね!ほらほら座って!」

髪の右側に紫のリボンで結んでいる赤髪の少女が部屋に入る女性を誘導し
ソファーに座らせる

「お茶です」

今度は髪の左側を黒いリボンで結んでいるさっきの子とよく似た少女がお茶を差し出す
女性はおどおどしながらも深呼吸し自体を把握する
そして二人の少女に落ち着いた口調で話しかけた

「わたし、殺して欲しい人がいるんです」

その言葉を聞くと少女たちは立ち上がり奥へ一回引くと
ひとりの男を連れてきた

「マスターはやくー」

「マスター・・・」

連れてくるというよりか引きずられているようにも見える
黒いスーツに身を包んだ男が二人に引きずられて出てくると
私を見るなりいきなりしゃきっとし先ほどの隈も消えている

「ようこそ断罪探偵事務所へ。」

「は、はい・・・」

差し出されたお茶を一口のみ
ひと呼吸置きながら気持ちを落ち着かせる
そしてここに導かれたことを話す
赤いカラスのこと。ネットでのうわさ
そしてここがにくい人を殺してくれるところだと・・・

「ふんふん・・・グリムの情報と一致してるね」

「はい・・・」

私は大きい封筒と小さな茶封筒を取り出す

「私が殺して欲しい相手は・・・新井修真という男です」

大きい封筒には住んでる場所と写真、行動時間を細かく書いてあり
教材のようにまとめられていた

「あいつは・・・妹を殺しておきながら警察の目を欺き・・・今ものうのうと生きてる・・・」

憎しみのあまりつい封筒を握っている手が震える
どうか届いて・・・私の憎しみ
私は震える憎しみを抑えながら札束を詰め込んだ封筒をテーブルに差し出す

「5000万です・・・これでどうか・・・!」

男は二人の少女と顔を見合わせ笑い出した
その風景を私は唖然と見ていた

「あ、あぁごめんなさい・・・お金はいらないよ」

「お、お金がいらないのですか?!ほかに何を差し出せば・・・っ!」

いろいろと考えた・・・金でなければ体か・・・命か
妹の敵が打てるなら命を差し出しても構わない・・・っ
下を向き奥歯を噛み締めながら考えると二人の少女が私の手を握り
顔を覗き込んできた
その手は陶器のように冷たかった・・・
でも瞳には熱い何かが燃えているように見えた

「何もいらないよ・・・」

「私たちが欲しいのは・・・貴女の純粋な憎しみ。それだけです」

「何か報酬を考えるなら・・・ただその人を憎んでね?」

その意外な言葉で私は全身の力が抜けた
私がただ憎めばいいと・・・
そしてその人が消えたとき・・・私は初めて妹の墓参りに行けると・・・

「今夜でよろしいですか?」

私は黙って頷き書類にサインしその場をあとにした
その足取りは悲しいほどに軽かった
根拠のない話だが・・・とても心が清々しい・・・
今夜ですべてが終わり新たに何かが始まる気がした・・・



月の光が弱く該当すら薄い夜中
二人の人形はとある男を待っていた・・・
その男こそ
依頼人の憎しみ人

「こんばんわ!」

紅水晶が男に話しかけると男は振り向く

「依頼人。高塚美依さん・・・祐未さんの憎しみ晴らさせていただきます」

真紅石が男に吐き捨てると二人の手は忽ち歪に輝く銀色の刃に変わり
首と脚を突き刺す
男は叫ぶまもなく崩れ刺された箇所から徐々に砂に変わっていく

「死を味わうように崩れていけ・・・下衆野郎・・・」

「お姉様・・・素敵」

男はのたうち回りながら砂になり朽ち果てた・・・
紅水晶はポケットから小さな小瓶を取り出し
朽ち果て男だった砂を少し掬い上げ瓶に収める

翌日・・・


「高塚さん・・・こちらになります」

砂の入った小瓶を依頼人の高塚さんにわたす

「・・・・・・・・こ、これが・・・?」

二人の少女と男が頷く

「・・・・っっ・・・なんとお礼を言ったら・・・っっ」

「私たちは貴女の憎しみが晴らせて・・・幸せです・・・」

後に殺されたはずの男は謎の失踪を遂げた・・・。


――――プロローグ END――――