痛いなっ
誰?
私は後ろを振り返った。
「下手くそな鼻歌
朝から聞かせないで~
あ~」
笑い声と共に
両耳をふさぐ仕草を
しているこの男は
やっぱり。
「ひかる!」
私は怒った顔をし
すたすたとひかるに背中を
向けて歩き始めた。
光。
私と同い年で同じ大学に
通ってる男の子。
幼稚園からの幼なじみで
よく家に遊びに行ったり
好きなCDの貸し借りを
することが多い。
私にちびっていうけど
ひかるの方がちびなのに
いつも私を馬鹿にする。
私は小さくあくびをした。
「ふわぁ… 眠い」
木漏れ日からこぼれる光が
夏の始まりを教える。
そこに急に
ひかるの顔が現れる
「昨日ちゃんと寝て
なかったの?」
小さいひかるが私を
見上げて言った。
「ゆうべはなかなか
眠れなくって…
あっ そうそう これ」
私はカバンから
ごそごそ何かを探す。
あった。
「CD。 凄く良かった!
特に二人が一緒に
歌うところなんか
ひしひしくるっていうか…
DVDも見たけど世界観が
不思議ながらも
ちょっとポップで可愛くて
…」
私は夢中になって少し
興奮気味に話すと
ひかるにCDを渡した。
「でしょでしょ!
ファンからしたら
あの世界観たまらないね~やっぱり美憂花なら
わかってくれると
思ってた」
ひかるがニコッと笑う。
ひかるの笑顔を見ると
何でも許してしまう。
ひかるはどちらかと言うと
かわいい感じの
男の子だった。
今までも結構その
可愛さゆえに女の子に
何度か好感をもたれて
告白されたなんてことも
しばしば。
よく幼なじみから
恋愛に発展するって
少女マンガや友達の話
なんかで耳にするけど
私の場合ひかるに対して
恋愛感情というものは
なかった。
きっと向こうも
そうだと思う。
一度も「男の子」として
見たことがなかった。
ひかるがCDを
カバンにしまい
私をまじまじと見る。
「ん~ なぁ」
な 何
もしかして
今日の私の服装
おかしいのかなぁ
「な…っ 何…?」
私はなんとなく縮こまる。
「いや… なんか
美憂花 大人っぽく
なったな って
ちょっとびっくりした
どっか行くの?」
かわいい顔で
ひかるはさらっと
こういうことを言えるから
女の子が好きに
なるんだなぁって思う。
おかしい訳では
なかったんだ。
少しほっとし、
髪の毛を耳にかけて
ひかるを見る。
「私…モデルになるのが
夢なんだ
今日はモデル事務所に
面接に行くの」
私がそう告げた瞬間
一瞬光の顔が止まった。
腕を組んで考えるような
素振りをすると
またかわいらしい
笑顔になった。
「…そっか 頑張れよ
受かったらいいな!」
「ありがとう
受かったら光に一番に
教えてあげる」
私がいたずらっぽく笑って
光の頭をツンツンすると
「もうオムライス
作ってやらないぞー」
少し怒った表情を見せて
光は携帯をポケットから
出す。
私もそろそろ行かないと。
「あっ ヤバい」
光はあわてて携帯を
ポケットにしまった
「サッカー?」
光は部活でサッカーを
している。
昔からサッカーが
好きなのは今も変わらない
「そうそう ゴメンな
じゃあな 頑張れよ!」
頑張れ。
光に言われると
不思議と力がわいてくる。
「ひかるも頑張って!」
そうして私たちは
別れた。
