ドサッといいながら辰海くんの手から離れていく誰かわからない男の人。茶色い髪の毛に血の赤が混じってて怖かった。



「……春」



でも、その人よりもっと怖いのは辰海くんだ。




辰海くんは倒れている人なんて目も向けずに私の元へ歩いてくる。私はそんな彼が怖くて仕方ないけど、ここで逃げたらあとで何されるか分からない動かないでいた。




「春、やっと春に会えた」


彼はそう言うとギュッと私を抱きしめる。抱きしめてる手は血で赤いし、彼からは香水と血の生臭さがしてくる。




「た、辰海くん……」





どんなに嫌だと思っても決して逆らってはいけない。それが、彼と関わることで学んだこと。





「……なぁ、今日こそいいだろ?」


「……えっ?な、なんのこと?」





とっさに顔を上げて彼の顔をジッと見つめる。思えばこんなにしっかり見るのは今日初めてだ。




「………、春は本当に天然だな」




辰海くんは最初はビックリした表情をしたが、それは一瞬だけで次はニヤリと口角を上げた。





「……天然なんかじゃ、」


「春のそういうとこ、俺は大好きだ」





辰海くんは返り血で真っ赤な手を私の頬に滑らせてきた。真新しい血なのかヌルッとして気持ち悪かった。




「……春」



辰海くんはそのまま角度を変えると顔を近づけてキスをしようとしてきた。彼の端正な顔を見るだけで私は変にドキッとしてしまう。




その時だった。唇が触れるか触れないかという時、辰海くんの背後で誰かが動く姿が見えた。