しかし、本当の父のことは、ほとんど何も知りませんでした。

太郎が父のことを聞くと、強い男だったとか、大きい体だったとか、話しはしてくれるのですが、もっとくわしい事になると、重く口を閉ざし、こう言って終わるのでした。

「おまえのとうさんは、かあさんを探しにいったきりじゃ」

赤ん坊を残して去っていった父。

太郎がいだく父に対する気持ちは、決してあたたかいものではありませんでした。

もし、父が、母を連れ戻してくれたら、

そうでなくても、せめて父だけでも戻ってくれていたら、

自分は嬉しかっただろうと、太郎は思うのでした。