たえの心臓は、早鐘のように鳴っていました。

川下の村で、十五のときに鬼にさらわれた娘。

それは自分のことだろうか。

たえは、十七年前のことを思い出していました。


あの日男と、心も体も重ねあわせひとつになって、幸せに思いました。

あのとき、たえには、何も怖いものはありませんでした。

だだ、この強い男に、ずっと抱かれていたいと思うだけでした。

たえは、誘われるがままに、男についていくことを決めました。

男とともに新しい土地で暮らすことの困難さを、想像もせずに。