太郎は「かあさん」と叫ぶ代わりに、ようやく小さな声で言いました。

「人を探しにきたのじゃ」

女は吐き捨てるように言いました。

「こんなところに人はおらん」

その声は、やはりおばあさんに良く似ていました。

太郎はもう一度言いました。

「おれは、川下の村で十五んときに、鬼にさらわれた娘を探しにきた」

女の顔色がすっと変わりました。

が、その変化はまばたきとともに消えてしまいました。

「そんな女は、ここには居らん。はよう帰れ」

女は立ち上がり、足早に去っていきました。