化学の時間も終わり、教室に戻り2限目の地理の準備をする。
授業が始まり、いつものように教科書とノートを開いた杏子は、目の前が真っ暗になるくらい衝撃を受けた。
―――何これ・・・。
地理のノートを開くと、ノートはカッターか何かで切られており、『眞中健一に近づくな!』『ドブスが!』などといった内容の悪口が油性マジックで書かれていた。
朝、美穂がノートを見たときは何も書かれていなかった。
そしたら、自分がが席を離れていたのは、化学実験室に行っていた時・・・杏子は犯人の目星がついた。
―――もしかして?
杏子はある人物の方を見た。
化学の時間、最後に実験室に来たのは杉村だった。
字は、誰の字かばれないように崩してかかれていた。
しかし、杉村がやったという証拠はない。
杏子は、静かにノートを閉じ、見ないようにし、このことを美穂にも黙っておこうと決意した。
杉村が自分のことを目の敵にしてるくらいわかっていた。
美穂に話したら、健一の耳に入るだろう。
そうなれば、さらに酷いことをされるかもしれないと感じたので、言うことができなかった。
その後の授業はいつも通りに受け、昼休みがやってきた。
「杏子、さっきの話聞きたいから、今日は中庭で食べよ」
杏子の耳元で美穂が嬉しそうに囁いた。
―――しまった忘れてた・・・。
杏子は、ノートの落書きのことで頭がいっぱいになっていて、今朝の出来事などすっかり忘れていた。
「うん」
多分、今の杏子には拒否権はないことはわかっていたので、素直に受け入れた。
「杏子、私、古野先生に呼ばれてるから、先に中庭に行っててくれる?」
「うん。わかった」
小走りで職員室に向かう美穂の背中から目を離し、杏子はゆっくりと階段を下りた。
―――はぁ・・・どこまで聞かれるんやろうなぁ。美穂のことやから、隅々まで聞くんやろうなぁ。
これから起こることを思うと、杏子は中庭にいつまでも着かなくてもいいとまで思えて来た。
そんなことを考えながらゆっくりと歩いていたら、ある人物の姿が目に入った。
―――あれって、黒谷くんよね?
中庭に向かう途中、今まで見たことがないくらい恐ろしい表情をしている黒谷を見て、杏子は見間違えかと思い、二度見した。
やはり黒谷に間違いなく、一体彼の身に何が起きているのかが気になった。