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「岡崎さん、今日は体育委員会があるから、眞中くんにも言っておいてね」


「・・・はい」


職員室に用事があり行った時に、古野に掛けられた言葉は杏子を憂鬱にさせた。


―――委員会あるんや・・・。しかも、あいつに言わなあかんし・・・。嫌やなぁ。


杏子は、足取り重く職員室から出た。廊下から見える澄み切った青空を見ながら歩くも気分は晴れなかった。



「昨日、桜木先輩見た?」


「見た見た!やっぱり華代先輩めっちゃ美人やったね!」


すれ違う女の子達が話す会話が杏子の耳に入った。


―――桜木・・・華代?華代ちゃん昨日来てたんやぁ・・・。何しに来てたんやろう。まさか・・・・。



杏子は、嫌な予感がしたが、すぐに頭を振って否定した。


ーーーそれにしても華代ちゃんって結構有名人なんやぁ。でもあれだけ美人なら当然か。


華代の人気に納得しながら、教室へ向かった。

いつもと変わらない賑やかな昼休みの教室。

ため息をつき、教室の一角の群集を見つめる。


―――ちゃんと伝えないとあかんよな。


杏子は意を決して、健一の席に近づく。


「眞中く〜ん」


「ねぇ、帰りに遊ぼう」


近づくたびに猫撫で声のボリュームが上がり、杏子のイライラが増してくる。


―――あの声、気持ち悪過ぎる。どうやったらあんな声が出るのか教えて欲しいわ。


杏子は、嫌味をたっぷり頭に浮かべて、徐々に近づく。

最初に杏子に気付いたのは、健一はなくて、杉村恵だった。


『なによ』と言わんばかりの冷たい表情で杏子を睨んでくる。


ーーー私が何をしたって言うんよ!その顔の写真を撮って、大好きな『眞中く〜ん』に見せてやろか!


この状況で無理矢理健一に話し掛けたら、この軍団の反感を買い、ややこしいことに巻き込まれそうだったので、杉村に伝言を頼むことにした。


「杉村さん、眞中くんに今日の放課後、体育委員会があるって伝えておいてくれる?」


杉村の顔付きは変わらず「はいはい。用が済んだらあっち行って」と杏子を追い返し、背を向けた。


―――はぁ?何様のつもりなんよ!しゃべるチャンスを与えてあげただけでもありがたいと思え!


杏子は、腹が立つのを押さえて、自分の席に戻った。


「杏子、お疲れ〜」


「はい。疲れました」


杏子は席に座るとすぐに、机に伏せた。


「あの杉村さんの表情、怖かったね〜。私の『眞中く〜ん』に何か用?みたいな」


頭の上から美穂の声真似が降ってくるのでさえ、寒気がした。


「やめてよ・・・あの女の真似するの」


杏子は伏せたまま、美穂に訴えた。


「眞中く〜ん。今日の放課後、体育委員会あるんやって〜」


遠くの方で、杉村の猫撫で声が聞こえて、杏子のやる気をさらに喪失させた。