「私はね、あなたが杏子ちゃんを弄んでるなら、やめてもらおうと思ってたんやけど、好きなら、あなたが誤解を解いたらいいだけやん!甘えるんじゃないわよ!」


今までの話し方とは全く違う華代の様子に健一が呆気に取られていたら、華代は席を立ちレジの方に向かっていた。


「ごめんね」


初めとは違い低姿勢の悠が健一に謝り、華代を追い掛けた。


―――なんや?逆転したし・・・。


健一は一人取り残され、去っていこうとする二人の後ろ姿を見つめた。


「はぁ」


健一が大きなため息をついた時、頭の上から声がした。




「杏子ちゃんを惚れさすのは大変かもしれへんよ」


「えっ・・・」



健一は顔を上げて、華代の顔を見た。



まっすぐ健一の目を見て、落ち着いた口調で残酷なことを口にした。



「あの子、忘れられない人がいるみたいやからね」


その言葉だけを残し「じゃぁね」と健一の前から姿を消した。


「・・・・・・」



健一の頭の中では、華代に言われた言葉がグルグルと繰り返し流れていた。


―――俺は一体どうしたら・・・。


忘れられない男って誰?俺も知ってる男か?どうしたらいい?


健一は目を閉じて、杏子の悲しそうな顔を思い出した。


―――俺・・・最低やんな・・・あんなことをして・・・。



自分がしてしまったことへの強い後悔と、見えない未来に不安を抱き、その日はなかなか眠りにつくことができなかった。