夕飯を食べ終わると、杏子は華代に車で送ってもらうことになった。


華代は、指定校推薦で早々と進路が決まったので、すぐに教習所に通った。


大学には電車で通うので週末にしか乗らないらが、運転は上手い。


杏子が若葉マークが貼られた車に乗り込むと、「安全運転で帰るから心配しないでね」と助手席に座った杏子を見てニコッと笑った。


「華代ちゃん、送ってもらってごめんね」


「気にしない、気にしない」


とさっぱりと言い、華代はエンジンをかけた。ガレージを出ると、華代は杏子の家に向かって運転し始めた。


「杏子ちゃん、彼氏いてないん?」


突然掛けられた質問に少し動揺したが、「いてないよ」と答えた。


「そっかぁ」


含みのあるような言い方で華代は呟いた。


「華代ちゃんの彼氏はどんな人?」


杏子は、華代に彼氏がいるのは知っていたが、どんな人かは知らなかったので、興味があった。


―――並んで歩いても絵になるイケメンなんだろうな・・・。


「えっとね・・・人を見た目で判断しない人」


『人を見た目で判断しない人』


これは、佐知子からずっと言い聞かせられていたことだった。


「そうなんやぁ」


ふと健一の顔が杏子の頭に浮かんだ。


―――あいつにも、言ったんだったけな。


「華代ちゃん・・・男の子って・・・好きでもない人にキスできるんかな?」



「えっ?」


華代は、杏子から発せられた意外な言葉に動揺し、ハンドル操作を誤りそうになっていた。


「ちょっと、杏子ちゃん?どうしたん?」



―――本当にどうしたんだろう。急にこんなことを話してしまって。


「・・・・・・・」


「同じ学校の子?」


黙り込んだ杏子に華代は優しく聞いた。


その声はからかってるのではなく、きちんと話しを聞こうという姿勢だったことが杏子には嬉しかった。



「うん。同じクラス」


「どんな子?」


「・・・周りにいつも女の子が群がってるような子?」



これが健一を説明する言葉なのか、疑問に感じたので、語尾を上げて答えた。



「それって、不特定多数の女の子と付き合ってるってこと?」


華代は、運転をしながらも、眉をひそめて『どういうこと?』てでも言いたげな表情をしていた。


「いや・・・付き合ってはいないと思う・・・私の友達のことが好きみたいやし」


「じゃあ、その友達は?」



なんとなく煮え切らない杏子の返答に華代は続きを聞こうとした。


「美穂は、眞中くんの友達と付き合ってる」


「眞中くんっていうんやね」


杏子がつい出してしまった名前に、華代は即座に反応した。


「あぁ、うん」


「まぁ、忘れなさい」


華代は、はっきりと切り捨てるようにそう言うと、表情一つ変えずに運転を続けた。


「・・・・・・」



何の解決にもなっていないと思いながらも、杏子はそれ以上何も言うことができなかった。


―――でも・・・いつまでも考えていても仕方ないし、華代ちゃんの言う通り、忘れよう。



杏子は健一とのことはなかったことにしようと、必死にそう思うようにした。