「体育の授業、何をするか先生に聞いてくるわ」


「うん。じゃあ、先に着替えておくね」


1限目は体育だったので、杏子は美穂に声を掛けて体育教官室に向かった。


トントントン


杏子が金属性のドアをノックすると、手が接している部分から体中に響くように振動した。


いつもなら「は~い」と低い声が聞こえるのだが、返事がなかったので、恐るおそる重たいドアを開けた。


ドアの隙間から見えたのは、健一の後ろ姿だった。


そのままドアを閉めてしまおうか、どうしようか考えていると、ドアが開いたことに気づいた健一が振り返った。



「なぁ、入れば?捕って食ったりしないし」



―――当たり前や!



杏子は、健一に言われるまま体育教官室に入り、健一から離れた位置で立った。



「なぁ、この間のこと謝らして欲しいんやけど」


振り返って言っていたが、杏子は健一を視界に入れず、答えもしなかった。




―――何をどう謝るんよ!



二人の間に沈黙の時間が流れていたのを破ったのは、体育教師の中西だった。



「お前ら来てたんか!今日は、持久走のタイム録るからグランドに集合!」



何かの資料をまとめながら言う中西に二人の声が合わさった。


「えっ!」


「なんや?岡崎は、長距離得意じゃないんか?」


―――得意・・・好きやけどさ・・・朝から走ったし。



肩を落としている杏子の隣で、健一はさらにガックリと肩を落としていた。


二人は体育教官室を出てると、同時にため息をついた。


「また走るんかよ。ほんま最悪やし」



―――あんたのせいやろ!


健一が発した言葉に反応して、杏子は言い争いになるのも嫌で、返事をしなかった。