「杏子」


美穂は、杏子に近づくと、杏子の隣にいる男を「誰?」と聞いた。


健一には負けるとは思うが、美穂も険しい顔をしていた。

そして、杏子も健一や美穂の態度が理解できなくて、喧嘩腰になっていた。


「隆博くんは、いとこやけど?」


「ほんまにいとこ?彼氏とかじゃないん?」


しれっと話す杏子に、美穂は疑いの眼差しで再度確認をした。


「はぁ?」


杏子は、『何を言ってるの?』とでも言いたげな顔で、美穂の顔を見ていた。

その隣で隆博はニコニコしていた。


「彼氏に見えたんやぁ。嬉しいな」


そんな隆博の言葉など無視して、美穂は杏子に向かって、投げ付けるように言葉を吐いた。


「とりあえず、眞中くんに謝りなさいよ!」


「なんであいつに謝らないとあかんのよ!」


美穂の言っている意味がわからないといった様子で、杏子も返す。


「眞中くん、絶対勘違いしてるから!このいとこさんのこと、『特別な関係』やと思ってるから・・・」


「『特別な関係』?そんなことないし・・・」


「どっちにしても、惚れた女が他の男と抱き合ってるの見たら・・・」


「私を信用してないってことやん」


美穂の言葉に被せるように杏子は言い放った。


「そうじゃなくて・・・」


「私は謝らないから」


強い口調の杏子に、美穂も返すことができなくなっていた。


「杏子・・・」


「勝手に勘違いしたのはあいつやし」


杏子は、自分は悪くないと言わんばかりに主張した。


「もう勝手にしたら?佳祐行こう」


お互い感情的になっている上でのことだったが、美穂も引くことができずに佳祐を引っ張って健一の後を追った。


「隆博くん、私たちも行こう」


美穂は、後ろから杏子の声が聞こえたが、振り返ることもなく足を速めた。