健一は机に腰を掛け、窓の外を眺めていた。


少しだけ明るく染められた髪が、風で揺れていた。

健一は、ドアが開いたのにも気付いたが、振り返らなかった。


杏子は、健一から視線を外すと、自分の席に向かった。


静かに椅子を引き、座ると来週提出分の課題をし始めた。



杏子が椅子を引いた音は、静かな教室では、健一のところまで聞こえていた。


「おはよう」



健一は、杏子の席の近くまで来て、声を掛けてきたが、杏子は無視をした。


「あのさ・・・昨日の・・・」


さらに健一が近づいて来るのがわかったので、目を合わせることもなく立ち上がり、そのまま教室から出ていこうとした。


「おい!ちょっと待てよ!」


健一は、杏子を引き止めようとしたが、杏子は振り返ることすらせずに、廊下に出た。


絶対にまた変なことを言われるに決まってる。


追ってくる健一から逃げようと、必死に廊下を走った。少しずつ増えて来た生徒の目など気にする余裕もなく、走った。



―――いったいどこまで追ってくるんよ! しつこいし!あっ!いい所見つけた!



追い手から逃げるように杏子は、女子トイレに隠れた。


健一がいなくなったのを確認して女子トイレから出ると、教室に戻った。


教室に戻ってしばらくして健一が戻ってきたことは、教室が騒がしくなったのでわかったが、気づいていない振りをした。


美穂が登校していたので話をしていると、杏子はとてつもなく鋭い視線を感じた。


恐る恐る視線を移すと、杉村恵(スギムラ メグミ)が杏子を睨んでいた。


杉村とは、健一の熱狂的なファンで、いつも健一の側をうろうろしていてるが、まったく相手にされていない。


健一と杏子が話しているので目の敵にしている。


その視線をできるだけ気にしないようにして、美穂と話を続けた。