「はぁ〜終わった」


期末テストも終わり、クラス中が明るい雰囲気で包まれている中、杏子は緊張をしていた。


―――今日は、素直に、女の子らしく・・・。


あっ、すでに囲まれてるし・・・どうしよう・・・。


「杏子、帰ろう」


「あ、うん・・・」


―――どうしよう・・・話し掛けるチャンスがない!


その時、担任の古野から声を掛けられた。



「眞中くん、岡崎さん、今日は急遽、体育委員会があるから行ってくれる?」


「はいっ!」


杏子は喜んで返事をして、健一の方を見たが、周りの子達と笑顔で何かを話していた。



―――うわっ、また腹立ってきたよ。でも我慢、我慢。素直に、素直に・・・



杏子は唱えるように、自分の方に向かってくる健一を待った。


「じゃあ、杏子、下足場で待ってるね」


「うん。ごめんね」


美穂に謝るとすぐに、杏子を包み込むくらいの大きな影が近づいて来た。


「行くか」


「うん」


―――素直に、素直に・・・。



そう唱えると唱えるほど緊張してきて、何も話せなくなっていた。


「なぁ、どうした?なんか変やぞ?」


健一は、自分の少し後ろを歩く杏子に、顔だけ振り返って聞いていた。


―――まずい、変な反応になってるんだ。


「へっ?べ、別に何もないよ」


杏子は、俯いて否定したが、その言葉でさえ噛んでしまい、余計に怪しくなってしまった。

健一は、足を止めて、杏子と視線を合わそうとした。

杏子には、その視線が痛かった。


「ちょっと、来い!」


健一は杏子の腕を掴んで委員会のある家庭科室とは逆方向に歩いて行った。


―――えっ、どこに連れていかれるん?


杏子が連れて来られたのは、人通りがない資料室の並ぶ廊下だった。

健一は、杏子を壁の方に立たせてると、向かい合うように立った。


「それで、どうしたんや?」


じっと見つめられて、杏子は動くことができなくなっていた。


「・・・・・・」


「今日のお前、なんかおかしいぞ」


「・・・・・・」


さらに、しっかり見つめられて、声さえも出せなくなっていた。


「どうした?」


首を傾げながら、優しい表情で聞いてくる健一に、杏子の胸はうるさいくらいに高鳴っていた。


―――やばいよ・・・めちゃくちゃドキドキするよ・・・。なんて言ったらいい?ここは、正直に言うべきよな。


「笑わんといてな?」


どうしても目を見ては言えなかったので、俯いて聞いた。


「あぁ」


一度大きく息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。