「なぁ・・・それって、どんな奴?」


「・・・ガッくん」


「へっ?」


健一は、杏子の予想外の答えに目を丸くし、素っ頓狂な声を漏らした。意味がわからんといった顔をしていた。


「私はね、昔のガッくんが好きなんよ」


「昔の・・・?」


「そう・・・昔のガッくん・・・いつも私を守ってくれて・・・私を笑わせてくれるガッくんが忘れられへんの・・・」


「そいつが、お前の『白馬に乗った王子様』ってわけやな」


健一は、半ばため息混じりの声で呟いた。


「『白馬に乗った王子様』かぁ。ガッくんの場合は・・・『象に乗った王子様』かな?」


「ぞ、象?」


嬉しそうに話す杏子に健一は、眉をひそめて聞き返した。


「そうそう。ガッくんが白馬に乗ったら、白馬が壊れそうやからね。だから象」


「お前なぁ」


「ふふふ・・・象なら二人乗ってもびくともしないやろうしね!」


「・・・そうやな」


顔を見合わせると、お腹が痛くなるくらい笑い合った。


「はぁ。腹痛い・・・」


二人で空を見上げると、梅雨の晴れ間に出た太陽は、あの時と同じように笑う二人を優しく見守っているようだった。


「それで、俺はどうしたらいいん?」


「えっ?」


「『えっ?』じゃないし。俺は・・・昔の俺に勝たれへんのか?」


寂しそうな表情で隣にいる杏子に聞いてきた健一の表情は真剣そのものだった。