「岡崎さん、教科書見せてくれる?」
黒谷が身を乗り出し、聞いてきた。
「いいよ」
杏子は、若干戸惑ったが、困っている人を放っておくわけにはいかず、了承した。
「この前、岡崎さんに選んでもらったケーキ、姉貴大喜びで食べてたよ」
先生が板書している時を狙って、声をひそめて、私の顔を覗き込むように話しかけて来た。
「そ、そう。よかった」
視線を合わせてくる黒谷に杏子は引き気味に答えていた。
―――何を企んでるん?しかもよく何にもなかったかのように話し掛けて来れるよね・・・。私を助けてくれたのはあなたじゃないんやろ?
杏子は、今すぐにでも問いただしたかったが、実行に移すと興奮して何を言い出すかわからなかったから、我慢することにした。
「今日は、体育何したん?」
―――そんなことどうでもいいことよね。
「バドミントンやで」
不機嫌なのを悟られないように、できるだけ笑顔で答えた。
「岡崎さん、中学の時、バドミントン部やったんやろ?今日は楽しかったんじゃない?」
そう笑顔で覗き込むようにする聞いてくる黒谷の顔に、不覚にもドキドキしてしまった。
「足首を捻挫してるから、見学したんよ」
―――そうよ・・・誰かさんが助けてくれたんでしょ?
「そっかぁ、まだ痛む?」
「もう大丈夫」
見つめ続けている黒谷くんと視線を合わせて答えた。黒谷は杏子の瞳を見つめていた。
「心配してくれて、ありがとう」
「うん」
何度となく黒谷に見つめられ、平常心でいることができなくなってきたところで、午前中の授業が終わった。
―――はぁ・・・なんか、気疲れしたよ・・・。
疲れ切った表情で座っていると、美穂がいつもの調子で、「お腹空いた〜!お弁当食べよ!」とくるりと後ろを向いた。
「うん。食べよう」
「美穂、何か飲む?」
教室を出る直前に、ドアから顔を覗かせて聞く佳祐の声に反応し、美穂は振り返り笑顔で答えていた。
「レモンティ買ってきてくれる?杏子は?」
「私は大丈夫やで」
「了解!」
佳祐は笑顔を残して、教室を出て行った。
「相変わらず、ラブラブやね」
「まぁね」
美穂はウィンナーを食べながら、彼女の余裕を見せていた。

