「あら、重役出勤の岡崎さん」
腕を組みながら、偉そうに言い放つ杉村に対して、杏子は嫌悪感しか生まれなかった。
―――この女、待ち伏せして何をする気?
唇を噛み締め、杉村の次の行動を待った。
「眞中健一がまさか整形してるとはね〜」
杉村が言ったことに耳を疑い、そしてなぜ自分にそんなことを言ってくるのかが理解できなかった。
「・・・・・・」
「みんな騙されてたんよね、あの男に。前にね、あなたに『眞中健一に近づくな』って言ったのは撤回してくれていいから。あんな男、あんたにくれてやるわ」
杏子は、意味のわからないことを並べる杉村を睨みつけてた。
―――何言ってるん?
「・・・・・・」
「じゃあね」
何も言わない杏子に背を向けて、杉村は廊下を歩いて行った。
さっき感じられた生暖かい風は、さらに体にべとつくような、なんとも気持ちの悪い感触になっていた。
―――全然、意味わからんし!あいつが整形?何のために?そんな噂をみんな信じてあいつのことを避けてるん?
わけのわからない噂に振り回されている人間に、イライラしながら教室へ戻った。教室に入ってまず見たのは、健一の席。
―――やっぱり誰もいない・・・。
いつもならあいつの姿が見えないくらい群がっていた子たちが一人も居なく、健一は佳祐とごく普通に話をしていた。
「眞中くんってさ・・・」
私の後ろから来た子がこそこそと、健一の噂話をしながら教室に入って来た。
―――何?こそこそと卑怯な!
自分の席に座り拳を握り締めて、思い切り机を叩きたい気分だったが、どうにかこうにか抑えて、次の授業の準備をし始めた。
杏子の苛立ちが読み取れたのか、他の友達と話していた美穂が自分の席に戻って来た。
「杏子、古野先生に何か言われたん?」
「先生には特に言われてないし。それよりこの噂なんなん?!」
小声ながらも怒っているのが誰が聞いてもわかる口調で、美穂を問いただした。
「あぁ・・・やっぱり聞いた?」
「聞いたって・・・あからさまにおかしいやん!」
「それはね・・・」
「チャイム鳴ったぞ〜!座れ〜!」
美穂の言葉を掻き消すように、数学の高橋が教室に入って来た。
―――高橋先生来るの早いし!
杏子は1時間、もやもやした気持ちで過ごした。
―――いったい私が休んだ間に何があったんよ!
健一の方に目を移したが、噂の張本人はいたって普通に授業を受けていた。
長い長い授業が終わり、美穂に話の続きを聞き出そうと、後ろを向かせた。美穂は困惑した顔をしながら、ゆっくりと話し出した。

