「杏子って、彼氏いてるん?」


女子高生が3人集まったら、始まるのは『恋話』ってやつで、理香が杏子に聞いてきたことから始まった。


「いないよ。理香は?」


以前から友達なんじゃないかと思うくらい自然に名前で呼び合っていることが、杏子を嬉しくさせた。


「理香はね、中学から付き合ってる彼氏がいてるんよ」


ケーキを頬張り、沙知はニコニコしながら言った。


「そうなん?どんな彼氏?」


杏子が身を乗り出すように、理香に詰め寄ると、理香は鞄をあさり、手帳を広げ写真を見せた。


「うわぁ、かっこいい!」


写真の中の二人は、さすが数年付き合ってるだけあって、隣り合ったパズルのピースみたいに雰囲気がピッタリと合っていた。


「かっこいいでしょ?でも、木下くんは理香に一途なんやで〜」


「へーうらやましい。かっこよくて一途な彼氏って・・・」


彼氏を褒められた理香は、まんざらでもないような顔付きでケーキを食べていた。


「でも、大変やったんやでな?」


「えっ?」


杏子は、こんな幸せそうな二人に何が大変な事があったのか気になったが、聞くには気が引けた。

しかし、今まで笑っていた理香の表情が、急に強張っていくのが手に取るようにわかったので、相当大変だったのだと予想がついた。


「思い出しただけでも腹立つ!!杉村恵!」


「えっ?」


理香から突然出て来た思いもしない名前に動揺を隠せなかった。


「あっ、杏子、杉村さんと同じクラスじゃないん?」


杏子と杉村が同じクラスだと気付いた沙知は、遠慮がちに聞いて来たが、それ以上に理香の怒りは収まるところを知らなかった。


「そうやね!杏子、あの女には気をつけなよ!」


―――もうすでに危ない目に遭ってますけど・・・。


「な、何があったん?」


杏子は、聞くのが怖かったが、聞かずにはいられなかった。


「・・・私から、タケをとろうとしたんよ!あっ、タケってのは彼氏ね」


「えっ!!」


杏子は、あまり驚いて、大きな声を上げてしまった。


―――杉村さんが理香の彼氏を・・・。


「あれは、ひどかったよね・・・」


沙知が、眉間にシワを寄せて、『ありえない』といった雰囲気で首を横に振っていた。


「いったい・・・」


「そうよ思い出すだけでも腹立つ!」


理香は、杏子の言葉を遮るように喋り出し、一口で食べるには大きすぎるケーキを頬張った。


「ふぉんまぁ、ぅかつく」


理香は、口いっぱいに頬張ったまま喋っていたので、何を言ってるのかわからなかった。


「理香、腹が立つのはわかるけど、口の中のものがなくなってから話しなさいよ」


「ふぁい」


目の前のやり取りを見ていると、杏子にも二人の付き合いが長いことがわかった。


「はぁ、入れすぎた」


「相変わらずやね。理香ね、杉村さんの話になると冷静さを失うんよ」


杏子の方を向いて言った沙知は、「ごめんね」と申し訳なさそうに謝った。


「あったりまえやん!」


再び理香の怒りがこみあがってきているのがわかった。

杏子は、理香の話に真剣に耳を傾けた。