恋愛奮闘記




ふいに、彼の手が伸びてきた。
そしてそのまま、私の両手を両手で包み込む。

「ごめん、冷えたよな。俺のせいだ」

そう言って更にギュッと握られる。

「…ただ顔が見たかっただけなんだ」



冷えていたはずの手が、彼の温もりで熱を取り戻す。
自分の鼓動の音がドクドク聞こえる気がして落ち着かない。



「は、早坂さ…」

「せっかく家も職場も近いのに。理由がないとなかなか会えない。だから思い切って呼び出した」



それは、私に会いたいと思ってくれていた、と解釈して良いのだろうか。理由が無くても会いたいと、そう思ってくれたのだろうか。それなら…



「わ、私だって…」

早坂さんが、ん?という顔で私を見る。

「私だって早坂さんに会いたかったです」

「…え…」

「毎日家に帰ってきたら隣のマンションを見上げちゃうのは、早坂さんに会いたいからで、でも用事がないのに連絡するのは迷惑なのかなとか考えて…」

「や、のさん…」

「だから早坂さんも同じだったなら、嬉しい…です」

顔を見上げると、彼はすごく驚いた顔をしていた。そして次の瞬間、優しく笑った。