「うん。あのさ」
「はい」
「あーーー、うん」
「…はい?」
「だから…」
…一体なんなんでしょうか。
早坂さんは頭をガリガリしながら口ごもっている。
この人のこんな姿は初めて見た。
「あ、あの…私なにか、そんなに言いづらいことをしでかしたんでしょうか…」
「え!?違う違う!あーーごめん、ちょっと俺、多分今ものすごく緊張してる…かもしれない」
「………」
「………」
もうこの時期、夜は少し肌寒い。
マンションの前の人通りは少なく、街はとても静かだ。
そんな中で私はもう、目の前で顔を赤くしている彼しか目に入らない。
好きの気持ちが溢れそうになるのを必死に堪える。
あなたが、緊張している理由は何?
今、顔が赤いのはどうして?
そして私が、無性にあなたの手に触れたいのはどうしてなのかな。
全部、同じ理由だったら良いのに。
目が合った。
二人ともそのまま目をそらさない。
何かを期待させるような、彼の目。
私もきっと、今同じ表情をしてる。

