恋愛奮闘記




早坂さんと最後に会ったのは台風の日の夜、あの言い合いを目撃した時だ。

あれからお互いに何も連絡しなかった。

正直、ここ一週間は彼のことをゆっくり考える余裕もなかったし、忙しさにかまけて忘れられたらいいとさえ思っていた。



だからこうして急に目の前に現れて困惑した。



私はもう、彼を諦める覚悟をした。

この気持ちを忘れることにした。

会うと、それが揺らぎそうで怖い。



私がいることに気付いた早坂さんが近付いてきた。



「…お疲れ様」



久しぶりに見る顔。
久しぶりに聞く声。



「……お疲れ様です」



今はだめだ。
今だけはだめ。

彼のこともあり、お店のこともあり、精神的にきついものがある。
ここでトドメを刺されたらきっと立ち直るのに更に時間がかかるだろう。




はるかさんのことなんて、聞きたくないよ…。



どうやって早坂さんとの会話を回避しようかと悩んでいると、先に声を掛けられた。



「この前、さ。店の前通ったんだ」


はっとして彼を見た。


「お店大変そうだし、こんなこと言われたくないかもしれないけど…
また俺の髪、切って欲しい」



そう言った彼の目は真剣だった。

きっとお店の状態を見て、全て理解したのだろう。
しばらく休業することも、その先が危ういことも。