ずっと仕事せずにいると、腕がなまる。
技術職は、日々の積み重ね、経験が重要な仕事だ。
サボればサボった分だけ、衰えていく。
だからみんな一日に数時間だけ、店内でレッスンすることにした。
店長は、レッスンするときだけ店に来たら良いよ、と言ってくれた。
お店の修復は業者も来てくれるから、と。
でも毎日、全員がいつもの時間に出勤し、掃除するようになっていた。
休業しているからって誰も休んだりしなかった。
どれだけみんながお店のことを思っているかが、こういうときにわかる。
だからルールを作った。
本来のお店のお休みの日、つまり月曜日は絶対に全員が休むこと。
そうして台風の日から一週間程たった。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様ー」
夜、お店を出て帰宅する。
電車に乗り、自分のマンションに着くと、誰かがエントランスの扉の前に立っているのが見えた。
それが”彼”だとわかった瞬間、私は足を止めた。

