「お、俺、予約入れてくれていたお客様に断りの連絡入れます!」
岩佐くんが動き出す。
ふとバックルームを見ると、私のハサミがあった。
美容師が使うハサミ(シザーと呼ばれるもの)は、外に持って出ると銃刀法違反に引っかかるものがある。
だからこうしてお店に置いて帰る人が多い。
私はハサミを手に取ってみた。
変わり果てたお店の中、奇跡的に無事だったそれは私の手の中で綺麗に光っている。
…何年も私と一緒に練習してきたハサミは、もう体の一部のような存在になっている。
また、これを使ってお客様の笑顔を生み出す。
私にはそれしかない。
自分に出来ることから始めるんだ。
気付けばみんな、お店を元通りにするために汗だくになっている。
いつまで休業しなければいけないのか、そのことについては誰も何も言わなかった。
口に出したら泣いてしまいそうだった。

