「矢野。全部吐いちゃいな。聞いてあげるから。」
急に真剣な顔になって橘さんが言う。
そうか。今日誘ってくれたのもきっと私に頭の整理をさせてくれる為だったんだ。ほんと敵わないなあ…
お酒の力もあって、私は少しずつ話し始めた。
「あのですね、私、こんな気持ち久しぶりで…自分でもよくわからないんですけど、あの人を見た瞬間、何かに囚われたような感じになったんです。」
橘さんが隣で頷いてくれた。
「カットしてる時も心臓ばくばくで…もっとよくこの人のこと知りたいなって思って。それで最後、笑って帰っていったのを見て…この人に、一目惚れしちゃったのかなって」
言葉にすると自分の考えがまとまってくる。誰かに話すことで素直になれたり、落ち着けたりするんだと感じた。
「でも私…上手く言えないけど、それでどうなりたいとかじゃないんです。そりゃ、もっと近付けたらとか思いますけど、多分なにも行動出来ないです…。どうなるかもわからない恋愛に、自分から飛び込んでいくのが怖いです」
「司がそう思うならそれでいいと思うけど」
シュウさん…
「でも、その考えはだんだん変わっていくと思う。好きになればなるほど深く関わりたくなるもんだからな」
「あたしは司に頑張って欲しいよ」
橘さん…
「どうなるかわからないってのは、ほんとにどうなるかわからないんだよ?どの方向にだって転がるんだから。思うとおりに行動してみたらいいのに。何もしなくて後悔するのは一番もったいない」

