夜。
仕事を終えて駅まで歩く。
改札を通ろうとした所で声をかけられた。
「矢野さん!」
「え?あ…」
「こんばんは」
にこっと笑った人は早坂さんだった。
「一緒に帰ろう?」
「は、やさか…さん…」
「ん?」
「…幻覚?」
「ぶっ」
だって…あんなに会いたいと思ってたから、本当に会えるなんて夢みたい。
吹き出して笑ってる彼の顔を見て、自分の頬をつねった。痛い。
「一緒に帰ろうと思って待ってたんだよ!さっき店の前通ったら矢野さん帰ろうとしてたっぽかったから」
「…寒いのに、わざわざ待っててくれたんですか…?」
「…そういうこと言わないで。恥ずいから」
「…」
「…」
なんとなく照れ臭くなって、お互い黙り込んでしまった。
思えば、前に会ったときにあんなことしてしまってる訳で…。
わわっ、ダメだ!余計に恥ずかしくなってきた。
絶対今、顔赤いってーーー
だけどちらっと見えた早坂さんの顔も同じように赤い。
「…とりあえず、帰ろっか」
「…はい」
そうして二人で改札を通り、電車に乗る。
ちょっと気まずかったけど…
家の最寄り駅で降りるころには、だいぶ上手く話せるようになっていた。

